特色ある診療体制
アルコール使用障害
アルコール(お酒)が実は「薬物」だとご存じでしたか?
気軽に街中で24時間購入でき、テレビやYouTubeでは販売意欲を掻き立てるCMが流れるなど、私たちの日常生活にアルコールはあふれています。しかし、適量を超えた飲酒は、健康や社会生活に多くの支障を招く原因になります。
習慣的に飲酒をすることで耐性がつき、同じ量で酔いが得られにくくなるため、次第に量が増えて様々な問題を引き起こすようになります。このような状態像をアルコール使用障害(アルコール依存症)といいます。
当院では、平成7年より医師、看護師、公認心理師、精神保健福祉士などの多職種でアルコールリハビリテーションプログラム(断酒治療プログラム)を行ってきました。しかし、いきなり酒を止めることには抵抗があり覚悟が決まっていない方も多く、実際に専門治療に繋がる方は氷山の一角で、その間に重症化する方も少なくありません。
当院では受診のハードルを下げるためにも、ハームリダクション(Harm=害を、Reduction=減らす)の視点で、外来での減酒治療にも力を入れて取り組んでいます。
アルコール使用障害は生活習慣としての結果であるため、お酒との付き合い方を長期に渡って考えていく必要があります。その過程は容易ではないかもしれませんが、多くの方が回復していく姿を見てきました。
当院のアルコールスタッフは、その道のりを応援しながら、時には厳しく、寄り添いながら一緒に歩んでいきたい思いでサポートさせていただきます。
アルコール使用障害とは
アルコール使用障害(アルコール依存症)は、日頃の大量飲酒を背景に、ストレスなどの環境因子が加わることで発症します。身体的にも社会的にも様々な問題が出てきますが、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れて、飲酒のコントロール能力を失ってしまいます。習慣的な飲酒環境の中で気づかないうちに進行していく病気です。睡眠障害やうつ病を合併することが多く、それらの症状で初診された方の背景に大量飲酒が潜んでいる場合も少なくありません。飲酒運転や自殺とも強い関連があります。
この病気は、飲酒のコントロール喪失が中核症状であり、また、飲酒をしなければ進行はしませんので、治療のゴールは「断酒」となります。しかし、近年は重症度に応じて、「減酒(節酒)」も断酒へのプロセスとして、もしくは治療の一つのゴールとして取り扱われるようになりました。
ICD-10 アルコール依存症の診断基準 -世界保健機関(WHO)作成-
以下の6項目のうち、過去1年間に3項目以上が同時に1か月以上続いたか、または繰り返し出現した場合に“アルコール依存症”と診断されます。
渇望
飲酒したいという強い欲望あるいは切迫感
飲酒行動のコントロール
飲酒行動(開始、終了、量の調節)を制御することが困難
離脱症状
断酒や節酒による離脱症状の出現、離脱症状の回復・軽減のために飲酒する
耐性の増大
当初得られた酩酊効果を得るために飲酒量が増加する
飲酒中心の生活
飲酒のために本来の生活を犠牲にする、飲酒に関係した行為やアルコールの影響からの回復に費やす時間が増加する
有害な使用に対する
抑制の喪失
心身に問題が生じているにもかかわらず飲酒を続ける
セルフチェック
習慣的に飲酒をしていると、気付かないうちに有害な飲酒(使用)となり、関連問題が大きくなっている場合があります。AUDIT(オーディット)は世界保健機関(WHO)によって作成された、過度の飲酒をスクリーニングし短時間で評価するためのツールで、日本の診療場面でも使用されています。
当院の治療プログラム
患者様の葛藤を理解しつつ、これからの生活習慣を見直していけるよう、当院では以下の治療を行っています。
ARP
(アルコールリハビリテーションプログラム)
退院後のアルコールとの付き合い方(断酒or減酒)を考えるための入院プログラム【2か月間】
アルドック
(アルコール使用低減プログラム)
減酒(節酒)に特化した外来プログラム
【3か月かけて全5回】
ARP(アルコールリハビリテーションプログラム)
アルコール使用障害で入院された方や、退院後の方を対象としたプログラムです。
- 実施日時
毎週火曜・金曜の13:30~14:30にミーティングを実施
- スタッフ
専門の医師、看護師、公認心理師、精神保健福祉士
- 期間
1クール2か月
- ビデオ学習
- 疾患講義
- 動機付け面接
- 体験談の共有
- 自助グループ
参加
上記以外にも、
- ❶離脱症状の予防
- ❷睡眠薬等の薬剤調整
- ❸心理検査
- ❹作業療法
- ❺外出・外泊訓練
などの治療を行いながら、退院後の生活が安定するようサポートしていきます。地域の断酒会とも密に連携しており、多方面からアドバイスが得られる環境をご提供します。
アルコール使用低減プログラム(アルドック)
当院では平成25年より、アルコール依存症の予防を目的とした外来での減酒プログラムを開始しました。当時は「減酒(飲酒量低減)」が治療ガイドラインで示される前ともあり、当プログラムは学会誌に掲載されるなど注目を集めた経緯があります。
アルコール使用障害は、断酒をすればそれ以上進行しません。しかし、飲酒量を減らすだけでも死亡率は大幅に下がります。「減酒」をターゲットとした治療薬も処方可能な場合があります。
外来通院という実生活の中で飲酒に向き合い、お酒と末永く付き合うために必要な基礎知識を学ぶ場です。そのため、ご家族との参加を推奨しており、完全予約制(個別開催)です。
まずはお電話でご相談ください。
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診察
不眠、うつ病等の早期発見と治療等
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検査
頭部CT、血液、心理等
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健康教室
疾患教育、飲酒量低減の方法を検討
- アルドックは完全予約制
まずはご相談ください -
0848-63-8877
電話受付時間 / 8:30〜17:00
その他の取り組み
オンライン相談
治療の開始に悩むご本人やご家族を対象にオンラインでの個別相談を実施しています。
地域を問わず、全国からご参加いただけます。
家族教室
アルコール使用障害は家族や職場など周囲を巻き込みながら進行し、困り果てた家族からの相談で受診につながるケースも少なくありません。一方で回復においても、本人だけの努力ではなく、家族の協力が不可欠です。
当院では、現在の状況をご家庭のテーマとして考えるため、本人と家族合同で行う勉強会を開催しています(個別開催)。
お互いに見えていなかった思いや考えに気づき、歩み寄る機会になればと考えています。
自助グループとの連携
断酒会、AA(Alcoholic Anonymous)は、当事者やその家族で構成された自助グループとして、各地域で展開しています。
当院では最寄りの断酒会と密に連携し、希望する患者様をおつなぎできるよう支援しています。自助グループは酒を止めた人ではなく、酒を止めたい人たちが集う場です。
当院が断酒会と共同調査した結果をご覧いただけます。
地域啓発・出前講座
飲酒に関連する正しい知識や、アルコール問題が疑われる方への声掛けの仕方はあまり広く知られていません。また、アルコール依存症治療への抵抗から、ストレスや不眠に対する自己治療として飲酒を続けている方も少なくありません。
当院では、講演会や出前講座などで積極的に地域に出向き、疾患理解の普及啓発を行っています。
学会発表
当院の取り組みの普及や、臨床場面で分析した課題などを、日本アルコール関連問題学会をはじめとした様々な学会で報告しています。2019年には、病院長がインドネシアで開催されたAsCNP-ASEAN2019にてアルドックの報告を行いました。