特定医療法人 大慈会 三原病院

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こころと脳のくすり

抗うつ薬

こころと脳のくすり

うつ病を甘く見ないで

 日本のうつ病患者はWHOの推計で人口の約3%と言われており、近年増加している自殺の背景になっているのではないかと言われています。うつ病はしばしば『心の風邪』と言われますが、病気になった本人にとってはそんな風邪みたいな軽い病気ではありません。うつ病は初発の人に限っても再発率は約6割と非常に再発しやすい病気で、さらに重症うつ病患者の生涯自殺率は15%との調査報告があり、決して軽く考える事はできません。うつ病も早期発見・早期治療できちんと治療しなければならない病気なのです。ここでは病気の詳しい説明は省きますが、その治療の基本となる薬物療法について簡単に解説してみます。

 


抗うつ薬とは

 原因は十分解明されていませんが、うつ病患者においては、脳内で神経伝達物質として働いているセロトニンやノルアドレナリンが少なくなっており、そのためこれらが関わる神経系の働きが悪くなったり、過敏になっているという説(この考えは「モノアミン仮説」と呼ばれています)が有力です。この考えに従い、セロトニンやノルアドレナリンの神経系の機能を正常化してうつ病を治療する薬を「抗うつ薬」と呼んでいます。

 抗うつ薬はうつ病以外にも、強迫性障害(本人も不合理だとは分かっていながら、ある考えや行為を止められなかったり、止めるのに強い不安を感じて生活に支障が出ている状態)や、パニック障害(動悸や呼吸困難などが突然起こるパニック発作で、発作を起こす度にその場所や状況に対して強い恐怖を持つようになるために日常生活に支障が出る状態)に用いられるものもあります。また、社会不安障害(いわゆる「アガリ症」)や、過食症・拒食症などの神経症的疾患に用いられることもあります。

 


抗うつ薬の歴史と種類

 ここで登場する薬の名前は成分名(当院採用薬の商品名)の形で表記します。

 抗うつ薬の開発は1950年頃、結核治療薬のイソニアジド(イスコチン)などが抗うつ作用も示すことが分かったことから始まったようです。この作用はセロトニンやノルアドレナリンを分解する役目を持つ「モノアミン酸化酵素(MAO)」の働きを阻害することによるのではないかと考えられ、同じ作用を持つ薬として「MAO阻害薬」が開発されました。しかしこの種の薬剤は肝障害など重篤な副作用が多く、現在では発売中止になっています。

 一方で抗アレルギー薬開発の途中で発見された物質イミプラミン(トフラニール)に抗うつ作用があることが分かり、1959年に抗うつ薬として登場しました。その後それをヒントに作られたアミトリプチリン(トリプタノール)、クロミプラミン(アナフラニール)などが登場し、これらは「三環系抗うつ薬」と呼ばれています。しかし、MAO阻害薬に比べれば安全性は高かったものの、口渇、便秘、眠気、立ちくらみなどの不快な副作用が強く、時には不整脈や心停止といった危険な副作用もあらわれることが問題となっていました。

 1980年代になると、副作用がやや弱い第2世代の抗うつ薬が登場しました。「四環系抗うつ薬」と呼ばれるこれらの薬にはアモキサピン(アモキサン)、マプロチリン(ルジオミール)、ミアンセリン(テトラミド)などがあります。さらに90年代になると抗不安・鎮静作用が強いトラゾドン(デジレル)が開発され、薬物治療の選択の幅が広がりました。

 副作用を無くすために、目標となるセロトニンやノルアドレナリンが関わる神経系以外には作用しない薬の開発が長い間行われてきましたが、ようやくこれを実現する「セロトニン選択的再取り込み阻害薬(SSRI)」であるフルボキサミン(デプロメール)、パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフト)が、そして「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)」のミルナシプラン(トレドミン)がそれぞれ20世紀末から2006年にかけて相次いで登場しました。現在はこれらSSRIやSNRIのいずれかが初発や軽症のうつ病・うつ状態には第一選択薬として使われることが多いようです。

その他、抗うつ薬ではありませんが、うつ病に伴う様々な症状に対して、抗精神病薬や抗不安薬、睡眠薬などが組み合わされることもあります。

 


抗うつ薬の副作用

 一般的に抗うつ薬は、どの薬でも十分な量を飲めば治療効果はだいたい同じぐらいであると考えられています。しかし従来の抗うつ薬は、うつ病に関わるセロトニンやノルアドレナリン以外の神経系にも作用してしまうために副作用が多く(口渇、便秘、眠気、めまい、立ちくらみ、不整脈など)、しかも薬の効き目は数週間経って現れるのに対して副作用は比較的すぐに現れるため、副作用に耐えられず十分に飲めなかったりしたわけです。一方で近年登場したSSRIやSNRIに分類される抗うつ薬は、標的となる神経系以外には作用しないため副作用は少なく、そのおかげで比較的楽に十分な量を服用することが可能になりました。

 しかし、それでも次のような副作用があることは心に留めておく必要があるでしょう。

●吐き気、食欲不振(治療開始初期に多く現れますが、継続により自然におさまってきます)
●その他、頭痛、眠気、不眠、性機能障害などが起こることがあります
●離脱症候群(急な中止や飲み忘れで発生。頭痛、吐き気、発汗、激越、不安、知覚障害など)
●セロトニン症候群(ごくまれながら重篤な副作用。嘔吐、下痢、頻脈、高熱、錯乱、振戦、血圧上昇など)

 特に最初の時期は効き目も実感できないのに、吐き気や眠気などが現れたりしてつらい方も中にはおられますが、しばらくは我慢して服薬を継続することも必要です(もちろん我慢できなければ主治医にご相談下さい)。SSRIやSNRIが合わない人には、従来の抗うつ薬も効果の面では劣っていないため、こちらに変更されたりします。

 


治療のポイント

 それは「休養」と「服薬」です。うつ病の原因は気の持ちようや性格のせいではなく、環境から来るストレスによるものが大きいとされています。そしてやる気の出ない状態に焦りや不安を感じ、さらに無理を重ねることで病状は悪化します。休養しなければならないのは決して心が弱いからではなく、休養はさぼることとは違うということは理解しなければなりません。

 一方、薬は憂うつ気分や無気力を改善して、日常生活を送れるようにはしてくれるかもしれません。しかし、薬だけで失われた「心のエネルギー」を満タンにすることはできません。そのため、病気の元となった環境が改善されたり十分な休養による回復がなされたりしないうちに薬をやめてしまうと、かなりの確率で再発することが知られています。そして再発を繰り返すたびに病状は悪化、長期化しやすくなるようです。服薬期間は、ほとんどの方が何年にも及ぶものですが、休養や精神療法とも組み合わせて服薬を継続することが回復への一番の近道と言われています。

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